「帰還・生活再建に向けた総合的な支援策」に対する反対意見
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
福島県知事 内堀雅雄 殿
2016(平成28)年1月29日
〒115-0045 東京都北区赤羽2丁目62−3
マザーシップ司法書士法人内
ひなん生活をまもる会 代表 鴨下祐也
電話 03-6806-5414 FAX 03-3891-4144
ひなん生活をまもる会(以下「当会」)は、東日本大震災・福島原発事故によって首都圏などに避難している避難者団体(会員世帯数:100世帯余り)である。
当会は、福島県が平成27年12月25日に公表した、「帰還・生活再建に向けた総合的な支援策」(以下「支援策」)及び同日復興庁が発表した「福島県の『帰還・生活再建に向けた総合的な支援策』への支援」について、これに反対する意見を表明する。
その理由は以下のとおりである。
これまで、当会は、原発事故の避難指示区域以外からの避難者(区域外避難者)に対する応急仮設住宅の供与期間を平成 29 年3月末までとする方針について、「原発事故避難者の避難指示区域以外からのから避難用住宅を奪い、避難者の生活を根底から脅かすものであって、わたしたちは認めることができない。」と意見を表明してきた。
その理由についても、
(1) 原発事故は、今尚、収束とは程遠い状態にある。原発内部で溶融した多量の核燃料は、その所在も状況も不明のままであり、すでに放出された放射性物質は膨大であり、除染しても事故前の原状には回復せず、雨風に運ばれてくる放射性物質で今でも線量が上昇することもある。山林や里山、草原には放射性物質が蓄積され、長期的放出源となっているが、これらの除染は不可能である。
(2) 私たちの多くは、区域外避難者であり、東京電力からは乏しい賠償しかない。区域外避難者にとって、唯一と言っていい住宅の無償提供がなくなれば、今まで以上に生活資金を犠牲にして避難を続けるか、意に沿わない帰還をするかを選ばなければならなる。
(3) そして、区域外避難者は、生計維持者が避難元等に残り、母子のみが避難する「二重生活」の世帯が多く、区域外避難者の家計は苦しい。調査結果(東京災害支援ネット「2014年版・原発事故による避難世帯の生活実態調査」)によっても、生活費が増加した世帯の増加額は平均で約8万円に上る。このため、みなし応急仮設住宅では、4分の3以上の避難者が、無償提供の延長を求めている。
と、詳細に説明をしている。
ところが、本件支援策は、当会の意見を無視するばかりか、当会が示していた避難用住宅の有償化、現在の避難先の住宅からの追い出し、事実上の強制帰還の懸念を現実化させるもので、とても受け入れられるものではない。
当会は、「避難住宅は、私達の命綱です。これを切られたら、多くの避難者が、そして子ども達が路頭に迷います。私たちは決して無いものを怖がっているわけではありません。今も消えぬ脅威から身を守るための家を、どうか奪わないでください。」と要望してきたが、これは無根拠の要望ではない。避難者の意思に反して帰還を事実上強制することは、強制立ち退きを原則として禁じている社会権規約(国際人権A規約)11条や国際人道法、避難者の意思に沿った政策形成を趣旨とする原発事故子ども・被災者支援法2条2項、同法14条に反するなどの根拠があり、かつ、災害救助法上の延長の措置で法律上対応できる。
そもそも、原発事故避難者には、何の落ち度もなく、「自己責任」を押し付けられるいわれはまったくない。責任を取るべきは、福島原発を運転・推進してきた行政(国・県)であり、事故を起こした東京電力のはずある。避難指示区域以外からの避難者にとって事実上の唯一・最低限の支援策となっている応急仮設住宅の提供を打ち切るということは、行政が原発事故を起こした責任を放棄・否認するに等しく、当会はこれを絶対に許容できない。
福島県及び国は、ただちに、当会及び避難者の多数の意向を無視した帰還強制政策を放棄し、そもそもの応急仮設住宅の提供の打ち切りを撤回するよう求める。
以上